『黒ねこの王子カーボネル』

ずっと古書店で探していた本がいつのまにか復刊されていました。(復刊.comの復刊案内はしばしば遅いことがある。なんでだろう。)

この物語は主人公は少女ですが、話の中心にあるのは魔女の「使い魔」。普通の少女であるロージーは魔女の使い魔だった黒ねこカーボネルと偶然出会います。そして魔女はいなくなったものの、使い魔を縛る魔法からはまだ完全に解放されていないカーボネルを自由にするべく冒険をしていくのです。

主人がいなくなった後の使い魔というのは面白いテーマだと思うのですが、あまりクローズアップされることがありません。ゲームのルールにおいても解放される・元いた場所へ帰還する程度の記述しかないことが多い。
もちろんルールでサポートをしているゲームもあります。例えば『ルーンクエスト』の場合、造り主が死ぬと使い魔は主人から付与された能力値を失っていきます。このルールを使った展開として、以前プレイヤーで参加したシナリオではこんな流れがありました。
PCの父親(魔道師)が目の前で惨殺され、徒弟であるPCは父の使い魔と一緒にからくも脱出する。しかし使い魔は時間がたつにつれて弱っていき、意思の疎通すら困難になっていく。そこに父の知り合いを名乗る魔道師があらわれ「私にはその劣化を止めるすべがある。その使い魔を渡せ。」と迫ってくる…。


プライドを持つ使い魔のいう点でもこの物語は面白い視点を与えてくれます。カーボネルは魔法で縛られた使い魔ですから、主人との関係は尊敬や皮肉というよくあるものではありません。そして猫の王子である彼の振る舞いは矜恃に満ちています。このギャップが彼をより苦しめることになりますが、単なる寄り添う使い魔ではなく1人のキャラクターとしてより魅力的なものにしているのです。思わず自分のシナリオのNPCとして登場させてみたくなるくらいに。
実はこの物語をほぼそのままの内容で『ウィッチクエスト』のシナリオにしてプレイしたことがあります。依頼を受けるのは少女ではなく見習い魔女と相棒のネコになりますが、それも上手く働いてとても楽しいセッションになりました。*1ネコがプレイヤーにいる分だけネコ社会についての情報(“王子”について、など)を与えやすく、ネコプレイヤーも見習い魔女のサポート以外にいろいろな活躍場所を作ることができたのです。


この本はカーボネル3部作の1巻にあたるのですが、2巻以降は未だに翻訳されていません。復刊を機に続編も翻訳されないかと淡い期待を抱いています。


黒ねこの王子カーボネル (岩波少年文庫 161)

黒ねこの王子カーボネル (岩波少年文庫 161)

*1:ストラクチャーカードの引きとイベント表のダイス目がよかったというのもありますが。