『ドラゴンランス秘史 ドワーフ地底王国の竜』

ドラゴンランス戦記』の2巻と3巻の間にあった冒険を書いたお話。
読んで感じたのはこの本が劇中の空白を埋める必要性よりも、ノスタルジーのために書かれた物語であるということ。著者による前書きにも巡り巡ってこの物語を書くことになった感慨が書かれています。

思い返せばシリーズ最初の『戦記』の頃は作者も恐れ知らずで、登場人物も未成熟でした。そして読者もまだ若くかった。それから20年以上たった今『戦記』に新たな物語を加えるという段になると、成熟した作者は当時のように奔放には書けず、登場人物各人の物語は既に完結しており、その物語を知っている読者も昔と同じようには読むことはできない。
それを踏まえたうえでのこの『秘史』シリーズ、最初の巻のメイン人物にフリントをもってきたのはまさに適役としか言いようがありません。老フリントはおそらく『戦記』ではもっとも成長がなかったキャラクターですが、それでも老成したというには難しい部分がありました。
今回そんなフリントに本人にもそれとわかる形で“英雄”となる機会が与えられます。それに対するフリントの葛藤が本巻の中心となるのですが、その問に対する読み手の解答も20年前と今とでは違うと思います。さらに言えば今でなければフリントが見いだした選択に共感できたかどうかもわかりません。(映画『紅の豚』が楽しめるかどうかという問題に似ているかも。)

『秘史』シリーズは原語で『The Lost Chronicles』、『戦記』は『The Chronicles』ですが“Lost”(失われた)の部分にそんなに思いがこもっている気がします。あるいはひょっとしたら単にトールキンの『The Book of Lost Tales』にタイトルをひっかけたのかもしれません。ワイス達のドラゴンランスにはそういったオマージュがしばしばみられるので。


ドラゴンランス秘史 ドワーフ地底王国の竜

ドラゴンランス秘史 ドワーフ地底王国の竜